Frankfurt生活5週目

<6日(日)>

朝11時から再びAlte Oper。フランクフルト歌劇場並びに博物館管弦楽団のコンサート。変わった名前のオケだけど,言語は,Frankfurt Opernhaus- und Museumsorchesterという。そもそも,オペラが2箇所にあるのでややこしい。今のAlte Oper(旧歌劇場)が1880年に建てられた。それが大戦で破壊され,その後,今のオペラハウスが建てられた。さらに1981年(25年前)に市民の募金で再建されたのが今のAlte Oper。だから,Alte Operの4階の廊下には再建時の写真が展示されている。このオケは,最初のオペラハウスより70年も前に,フランクフルトの博物館協会のコンサート・オーケストラとして発足後,元のオペラハウスができたときから専属のオケだったようだ(たぶん)。

Museumskonzerteというのは,このオケの定期演奏会のこと。日曜の朝と夜,月曜の夜と3回演奏される(毎回そうなのだろうか?)。曲目は

  • コダーイ:ハーリヤーノシュ組曲
  • チャイコフスキー:ピアノ協奏曲2番(ピアノ:エリザベス・レオンスカヤ)
  • [アンコール]ラフマニノフ:プレリュード(ピアノソロ)
  • シベリウス:交響曲2番
    • 指揮:ルーベン・ガザリアン

大きなコンサート会場が,ほぼ満席だった。その割りには,集中して聴けたし,演奏はよくまとまっていて良かった。とても楽しめた。ところで今日の場所は,一番後ろ。ステージまで70mはあろうかというところ。おかげで入場料は15ユーロ。でも,良い音だった。

旧歌劇場の一番後ろから
Alte Operの一番後ろの席から
ステージの人が豆粒のよう


<7日(月)>

パスポート(ビザ)ができているかと思って3週間前に行ったBuergeramtに行ってみた。開門まで15分ほど待つ。並んでるのかたむろっているのかわからない集団に紛れて(並んでいるつもりではあったけど),開門と同時に一斉に入る…はずが,どうも出遅れる。譲っている場合ではない。ずっと後ろにいたはずの革ジャン(今日は寒かったのよ)のおじさんが,ずっと前に居たりして。

入って,この前聞いたとおり入り口を入って左にあるカウンターに並ぶ。4人ほど待って,目的を話すと,場所がちがうんだと。何の掲示もない(ように見える)し〜。聞いてみたら,入り口を入ってすぐ左の裏手。え,そんな所に窓口が!!完全に死角だったし,だいたい入り口を入ってすぐ左は普通壁でしょ。小さなカウンタがあって,そこでもらうのだった。もらってみたら,手続きは全部終了と言う。解説書によれば,それからまたAuslaenderbehoerde(外国人登録書)に在留申請に行くことになっていたので,聞いてみたらもう大丈夫とのこと。ビザの日付も9月30日までとなっていて,そこを指さされた。ワンストップサービスになっていたんだ。ありがたい。でも,これはフランクフルトだけかも知れません。

新しい部屋は,若干殺風景。壁の本棚にもほとんど何も入っていない。いろいろ持って行ってもいいわけだけど,持って行かなきゃならないほどのものは持ってきていない。しばらくは,この殺風景なままかな。若干の不便さは,ハブがないこと。今繋がっているケーブルを抜いて,差し替えないとインターネットが使えない。なんでも売ってそうなサターンに行ってハブを探してみたけど,USBハブしか見あたらず。Lipzig通りのコンピュータショップでは,2日待てと言われるし,待って変なものが来たらもっと困るし…。気長にさがそ。(抜き差ししているうちに,持ってきたケーブルの爪が折れちゃったので,抜けやすいんだけどね。) 

新しい部屋
新しい部屋


新しい部屋2
通常の窓の上に,もう1枚窓がある。
この分だけ天井が高い。
上の窓を開閉するために,レバーがついている。
よくできているのだか,どうなんだか。


教会
Ev-Reformierte教会
<8日(火)>

朝から,フランクフルトのDipfの所長と,ベルリンから来たDipfの所長(たぶんこちらの方がボス)と会談。関心事や研究の目的,日本の教育再生会議のことなどをいろいろ話す。

午後のICEでライプツィヒに向かった。所要時間の予定は約3時間半。車内で翻訳の改訂作業などをして,あと5分で到着というときに,電車が止まった。少し動いてまた止まる。…しばらくしたら,放送で到着が50分ほど遅れるという。その理由は聞き取れなかった。まわりの人が,みんなケータイで電話を始める。「1時間遅れるのよ,もう…」と後ろのおばあちゃんも電話している。だんだん天気が悪くなってきて,雷も見えたのでそのせいかもしれない。

と,突然電車が猛スピードでバックし始めた。止まっていたのはGrosslehnaという所(maps.google.deで検索すると,ライプツィヒの少し手前だったことがわかる)。そこからGrosskorbethaまで戻って停車。今度はまた猛スピードで前進して,少し北の方にあるMerseburgを迂回してライプツィヒに向かうらしい。結局到着したのは1時間20分ほど過ぎた5時30分ごろ。実は,この日の目的は,教会であるバンキエリ・シンガーズのコンサート。ハンガリーのコダーイ音楽小学校の出身者6名で構成されるコーラスで,カンテムス,プロムジカの上に(年齢的にかな)位置するものすごいコーラスグループ。かみさんが最近ハンガリーに行くのは,この関係(あ,実は僕の卒論もハンガリーの音楽教育,「コダーイシステム」だったんですね,恥ずかしながら)。で,このチケットが一度配達されたものの(住所はあってるのに)不達でチケットショップに戻ったらしい。電話があって,ショップ預かりにしてもらったけど,何時まで開いているのかが不安だった。

ライプツィヒは雨。気分も沈むし気は焦る。荷物をコインロッカーに入れて,ショップに直行。何のことはない,堂々とまだ店をやっていた。無事にチケットを手に入れて,教会の場所を確認。ライプツィヒ大学に続く建物の一部がエヴァンゲリッシュの教会だった。

コンサートは最高。プロムジカの指揮者もしているショーマの表情が笑わせる。この人,なぜか鼻眼鏡。目の表情と合わせて,舞台構成の一部なのだろう。強い音の時は教会全体が響くようで,小さな音のときは消え入るよう。一人一人の音量と音質がコントロールされていて,常に完璧に解け合う和音を作りだす。これはやはり普通じゃない。ノンビブラートの和音の綺麗さを堪能できた。曲目は,バロックのものが中心。アンコールにコダーイの「夕べの歌」。弱音で響くコーラスが,夕べの野原を連想させる。そこにソプラノのソロが乗っかって,人のあたたかい暮らしのイメージがわいてくる。すごい曲だし,すごい演奏だった。


<9日(水)>

ライプツィヒには2日延拍することにした。理由は木曜日の夜のゲバントハウス・オーケストラ。朝からチケットを買いにゲバントハウスまで行って,チケットを購入。リーズナブルな値段で,とても良い席を手に入れた。そこから市内に向かって少し歩いただけで,聖ニコライ教会に着く。

この教会は,最近では東西崩壊の端緒になったことで有名だ。1989年,ここに礼拝に集まった市民の非暴力のデモが広がって,壁の崩壊につながったということだ。

教会の中は白を基調とした,とても明るいイメージ。天井を支える柱の上の部分が,シュロの木をデザインしたいう解説なのだけど(「教会発行のパンフレットに「とりわけシュロの木として形造られた柱はとても印象的です」とある),地理的位置関係から考えると不思議に思わないでもない…と思って調べてみたら,どうやらナツメヤシらしい。マリアがナツメヤシの下でイエスを産んだとコーランには書かれているらしいし,実際,枝のデザインもシュロと言うよりナツメヤシだ。ただ,日本語ではナツメヤシのことをシュロと翻訳していたこともあるらしいので,間違っているというわけでもなさそうだ。

このパンフレット,「1989年の経験」と題した文書が載っている。そこに掲載されている東ドイツ政府中央委員会ジンダーマンの言葉に,「我々は全てを計画していた。我々は全てに対して準備を怠らなかった。そう,ろうそくと祈り以外は。」とあって,ろうそくを両手に持って非暴力運動を展開した市民の力を創造することができる。

ニコライ教会の外観
ニコライ教会の外観

ニコライ教会の内部
ニコライ教会の内部
柱がナツメヤシの枝のようになっている
柱の上部
柱の上部

トーマス教会のオルガン
聖トーマス教会のオルガン
統一後に新しく設置された方
演奏している人は頭のてっぺんしか見えない


バッハの墓
バッハの墓

その後,旧市役所やゲーテの像などの写真を撮って,聖トーマス教会に入った。その瞬間にきこえるオルガンの響き。明日の夜,オルガンコンサートがあって,その練習をしていた。時々とまったりするけど,降り注ぐ音には感動。何年か前にも全く同じシチュエーションでオルガンを楽しんだことがあったけど,今日のは何といってもトーマス教会。ここで録音されたバッハのカンタータの140番は愛聴盤の一つ。その現地に来て,歌声はないけどオルガンを聴けたってのは,曰く言い難し。

聖トーマス教会は,バッハが長く勤めていた所で,その入り口にもバッハの像が建てられている。教会の祭壇の手前には,バッハのお墓がある。教会出入り口の正面には,バッハ博物館があり,自筆の楽譜が展示されている。もっとも,自筆の楽譜そのものも一部印刷譜になっていて,出版社から購入可能なのだけれど。

ちなみに,バッハトルテなるケーキがあるらしい。バッハが考案したトルテというわけでもなく,ご当地銘菓というわけで,思わず松井サブレを思い出してしまった。あまりのギャップに爆笑。

バッハ博物館の次は,ライプツィヒ大学の博物館に回った。中に楽器博物館がある。表に出ているのは本の一部らしいが,それでも相当面白い。インタラクティブに楽器の音が聞けるようになっている展示もよかった(ただ,そのコンピュータは展示のすぐそばにあるというわけではないのだけど)。最高なのは,三つに折りたたんで運べる鍵盤楽器。確かに弦の長さはそういう風に変わっていく。それを折りたたみに採用した人間の叡智に乾杯。

夕方近く,シューマン博物館にも行ってみた。博物館そのものはまあそれなり。ただ,ここはクララ・シューマン基礎学校になっている(私学)。音楽に興味を持たせる授業と,ピアノの授業の両方を重点的にやっているらしい。で,授業を見ることはできないかと思って学校に入ってみた。さすがに4時半ごろだったので,校長先生は居なくて退散(通常のドイツの小学校は午前中…といっても1時半ごろまでで終了。ただ,ここはHortといって,早朝から夕方までやっている学童のような施設でもあるため,可能性はあったのだけど。)ホテルに帰ってからメールを打つ。返事待ち。

カフェメフィスト
カフェメフィストで
天井のメフィストの手の先に注目
ここだけ3D
クララ・シューマン基礎学校
クララ・シューマン基礎学校の掲示板

ゲバントハウス
ゲバントハウスの中

ゲバントハウスのイス
ゲバントハウスの椅子
背もたれの上のマチに穴が開いている


地理の授業
地理の授業風景
Carl Hertel 1874

<10日(木)>

午前中はホテルで仕事。午後からメンデルスゾーン博物館に行ってみた。実はメンデルスゾーンにはほとんど興味はなかったのだけど…。行ってパンフレットを読んでいると,社交的で人づきあいの良かった人柄がうかがえた。

夜はゲバントハウス管弦楽団の演奏会。ブラームス・チクルス。指揮はブロムシュテット。

  • 悲劇的序曲
  • 交響曲3番
  • ハイドンバリエーション
  • 大学祝典序曲

ゲバントハウスでこのオーケストラを聴けただけでも感動もの。弦楽器が揃っていてとてもいい。調和感の漂う演奏だった。

座席の背もたれの上のマチ部分が網になっていて,そこから新鮮な空気が出てくるようになっていたのには感心した。こんなふうに空調をするしかけは初めて見た。


<11日(金)>

結局,クララ・シューマン基礎学校とは連絡がつかずにあきらめた。行く機会はあるだろうか…。

開門と同時に美術館に入った。16世紀のフランドルがあるということで,ルーベンスとハルスを何枚か見た。あとは,アダムとイブのクラナッハ。

19世紀の地理の授業の絵があった。掛け図を使っている。

帰りの電車も20分ほど遅れた。

フランクフルトに帰ってみて,とても明るく感じた。ライプツィヒの天気のせいだけではなさそうだ。建物の高さ,色,道の色など,いろいろな要因があるように思う。ライプツィヒは重厚だった。


<12日(土)>

フランクフルトの周辺には,バーデンバーデンを初めとして温泉療養地がいくつかある。バードホンブルグは,最も近い所。ここのシュロス教会(お城の教会)で五嶋みどりがコンサートをやるというので行くことにした。2時ごろ家を出て,1時間弱で到着。

町は小さいながらも,とても綺麗で,目抜き通りにはフランクフルトで見かける商店が一通り揃っているように思える。お城には白い塔が建っていて,目を引く。

城の庭に,ボール状の花が咲いていた。アリウム・ギガンチウムというらしい。

演奏会の曲目は次の通り。

  • ベートーベン:バイオリンソナタ Op.12/2
  • シューマン:バイオリンソナタ No.2
  • メシアン:テーマとバリエーション
  • エネスコ:バイオリンソナタ No.3
  • [アンコール]グラズノフ:メディテーション
  • [アンコール]クライスラー:シンコペーション

ヒラリー・ハーンと五嶋みどりを連続で聴けるというのも贅沢な話だ。シューマンでは,ガルネリ・デル・ジェス(楽器の作者)のG線の鳴りがとても効いていると思った。エネスコでのテクニックはすごい。全く狂わない人工フラジオレットの連続。ジプシー音楽を表現するルバート,アゴーギグ,グリッサンド。この音楽は,この人でなければできないものなのだと実感した。

というわけで音楽週間になった5週目でした。

城の塔
シュロスの白い塔

花
ボール状の花

演奏会場
シュロス教会の舞台

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